ジャーナルJournal

Journal Vol.9

天木 眞さん(氣多若宮神社 宮司)

氏子の心意気は、
一言で言い表せられるもんではないんです。

JR飛騨古川駅から北側の高台に、古川町の市街地を見下ろすように鎮座する氣多若宮神社(けたわかみやじんじゃ)。この神社の例祭が、毎年4月19日と20日に行われる古川祭です。宮司の天木 眞さんは、3月の第一日曜日の抽籤会(ちゅうせんかい)の立ち合いや、本殿で行われる神事や町内での祝詞奏上(のりとほうじょう)などを行います。

古川祭が、神社を出て行われるワケ

古川祭は氣多若宮神社の年に一度の例祭です。氏子たちの話し合いのもと、「神様を一年中社殿に閉じ込めておくのはお気の毒なのでたまには外泊していただこう」と、御旅所(おたびしょ)を設けて、そこに神様をお連れすることが目的で始まりました。

19日の試楽祭(しがくさい)の午前中に、本殿で氏子、飛騨市、岐阜県、日本や世界の平和と安全をお祈りする神事が行われます。その後、氏子たちは神様を神輿に載せて町へ向かい、御旅所にお連れします。翌朝の20日が本楽祭(ほんがくさい)ですから、町内の氏子たちを起こすという意味合いで、前夜に起し太鼓を打つわけです。本楽祭ではご神霊が神輿に乗り移って各町内を回った後、社殿に帰っていきます。

時代に合わせて変わりながらも続いているワケ

屋台組や起し太鼓組のそれぞれの役職は、3月の第一日曜日に神籤(みくじ)で選ばれ、祭りは実行されます。神様を載せた神輿の御旅所への奉遷と、氏子のいる市中巡幸が例祭の本番なわけですが、これに付随する屋台の曳行(えいこう)・曳き揃えは、氏子から神様への奉納として行われます。屋台組も太鼓組も、氏子の皆さまの自治組織です。

地方の人口減が日本中で問題になるなか、途絶えていく祭りもあるでしょう。そうしたなかで古川祭が続いているのは、氏子たちが話し合いのもと、祭りの本質は変えないものの、時代に合わせて変えるべきところは変えるといった工夫をしていることにあるように思います。例えば起し太鼓の櫓は、かつては人が担いでいましたが、いまは車輪です。自動車修理会社の方が日産のブルーバードの車体を寄付してくださったものを、檜の枠にはめて使っています。車輪に変えたことにより、人数が減っても進みやすくなりましたし、櫓の傷み具合も遅らせることができるようになりました。
観光客の方には伝わりにくいかもしれませんが、神様への敬意や感謝の気持ちが氏子のなかに根付いているからこそ、古川祭には氏子たちの魂が込められます。祭りにお越しの際には、そうした氏子の心意気を汲み取ってご覧になってください。

ライター:干川美奈子 撮影:早坂直人[Y's C]

氣多若宮神社(けたわかみやじんじゃ)

飛騨市古川町上気多1297 電話0577-73-2568
創建は不明だが、大己貴人(おおなむち=大国主神・おおくにぬしのかみ)と御井神(みいのかみ)を主神として祀る。地元のパワースポットでもある一方、近年は新海誠監督の映画『君の名は。』に登場したこともあり、国内外から多くの観光客が聖地巡礼に訪れている。古川町を見下ろす高台に位置する。JR飛騨古川駅より徒歩約15分。

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