ジャーナルJournal

Journal Vol.7

西野 真徳さん、雅美さん夫妻(西野製材所)

朱雀組はちゃんとやっているかが問われる大仕事。
プレッシャーでした。

面積の90%以上が森林の飛騨市。そのうちの70%が広葉樹です。国内の広葉樹を専門に扱う西野製材所を経営する西野さんのお宅のある向町地区は、古川祭の朱雀組(すざくぐみ)にあたります。代表を務める西野真徳さんは2019年、朱雀組の一員として、起し太鼓の櫓(やぐら)の組み立ての責任者を任されました。

櫓の組み立てに四苦八苦

西野真徳さん:青龍組、白虎組、玄武組、朱雀組。この4つの組で毎年3月の第一日曜日に抽籤祭(ちゅうせんさい)を行い、その年の起し太鼓主事(しゅじ)が決まります。昨年は我々朱雀組が主事を拝命し、私は太鼓櫓(やぐら)の組み立て責任者を任されました。何もわからない状態からのスタートでしたから、プレッシャーでした。朱雀組の先輩だけでなく他の組の経験者にも話を聞きに行ったりして、祭りの当日までの約1カ月半、ほぼ毎晩公民館などに集まって皆で準備を行いました。

実際に櫓を組み立てたのは祭りの前々日、4月17日です。大太鼓の胴に薦(こも)を巻いたり、鐙をつけたり、組み立てた櫓に固定していくのですが、予想以上に難航しました。万全な準備を重ねてきたつもりでしたが、道具が足りないなどのハプニングも起きました。
組み終えてから初めて太鼓打ちの練習ができるので、早く組み立てないと練習時間がなくなります。太鼓は一度に4人が叩きますが、うちの組は4交代制なので、全部で16人が練習したいわけです。とはいえ、組み立てが不十分では事故のもとですから、慎重を期せねばならず……。朝8時から組み始めて、17時過ぎに組み終え、太鼓の練習がスタートしたのは18時でした。例年15時過ぎには練習を始めているくらいが普通なので、かなり時間がかかったことになります。練習時間が短くなってしまったことは申し訳なかったんですが、その甲斐あっていい仕上がりになりました。
櫓の組み立てというのは、朱雀組としてどれだけ準備を重ねて挑んだか、組としての価値が問われる大仕事です。神事ですし、へたくそな縛り方をしてしまったために人や大太鼓が落ちたり櫓が崩れたりしたら、「朱雀組は何をやっているんだ」と組全体に迷惑をかけることになります。祭りの当日、ほかの組の方からも褒めてもらえて、ほっとしましたし、嬉しかったですね。

50人のお客様をおもてなし。「呼び引き」の風習に驚きました

妻/西野 雅美さん:去年の夫は、初めての起し太鼓の組み立てで、準備に追われていました。プレッシャーがかかっているのが伝わってきましたし、日に日に痩せていくので、心配でもありました。
私はお嫁に来てから古川祭に関わっているので、初めて夫が起し太鼓に参加するのを見たときには、素直に男らしくてかっこいいと思いました。ただ、当時は「呼び引き」があって、女性たちも大忙しだったんです。

呼び引きは、お祭りの日に親戚や会社関係の方を自宅に招いてご馳走する風習です。多いときには50人くらいのお客さまが次々にお越しになっていました。夫たち男性はお祭りに出ていて不在なので、女性たちだけで食事やお酒の支度、提供、片付けをしなければならず、家の中で目が回るほどの忙しさです。
昔はお赤飯や煮物、吸い物などの料理を各家庭で手作りしていましたが、オードブルなどを購入してお迎えするご家庭も増えてきて、どちらにしても、呼び引きは労力だけでなくお金もかかるんです。お客さまのなかには何軒もはしごされる方もいらっしゃるので、10分経たないうちにもうお帰りになっているということもあれば、ゆっくり過ごされる方もいます。子どもたちをお祭りに連れていってあげたいという気持ちもありますし、時間のやりくりも大変でした。

飛騨の広葉樹と美味しいものと

西野製材所では、飛騨地域を中心に国内のさまざまな広葉樹を原木から仕入れ、製材しています。針葉樹を扱う製材所が多いなかで広葉樹を扱っているのは、飛騨の森林のほとんどが広葉樹だからです。広葉樹は形、色、香りとそれぞれ個性があって大量生産には向きませんが、高山市内をはじめ、県内には家具を作る企業も多いので、需要はあります。

原木はまず樹皮をカットするんですが、その時に出るおが粉と樹皮は、飛騨牛のベッドとして地元の飛騨牛の畜産農家へ提供しています。広葉樹は針葉樹に比べて発酵が早いので、山にして置いておくだけですぐに発酵が進んで湯気が出てきます。ふわふわして温かいので、牛がすぐに眠ってしまうと聞いています。さながら酵素風呂ですよね。この牛のベッドは、役目を終えたら最終的にたい肥になって畑にまかれます。木は小さなかけらでもボイラーの燃料にもなりますし、捨てるところがない、貴重な自然の恵みです。

気仙沼の牡蠣の養殖をされている方が以前飛騨に講演に来てくださって、「海が豊かなのは上流に広葉樹があること。広葉樹の落ち葉はたくさんの植物プランクトンを産むので、それが海に流れて牡蠣がプリプリになる」とおっしゃっていました。海と森は友達なんだと。飛騨の場合は、富山湾につながってます。だから富山湾の魚は美味しいんです。
古川にお越しの際には、飛騨牛と富山湾で獲れた魚の刺身はぜひ食べて欲しいですね。私のおすすめは駅前の居酒屋「喜楽(きらく)」です。古川はお酒に強い人が多いせいか、人口に対する居酒屋の数が多いらしいんです。一緒に古川の地酒も楽しんでください。
甘いものでしたら、新名屋(しんめいや)の「天ぷらまんじゅう」、田の下の「いちご大福」、大塚智英の「豆つかげ」などは、地元でも人気があっておすすめです。
観光なら、「円光寺」「真宗寺」「本光寺」を歩いて回られてはどうでしょう。1月に行われる「三寺まいり」は、この3つの寺を順番にお参りする、縁結びの行事です。三寺まいりのときには、私たちは薪の準備で少しだけお手伝いしています。

ライター:干川美奈子 撮影:早坂直人[Y's C]

西野製材所

広葉樹に特化した、日本有数の製材所。豊富な知識や経験のもと、飛騨地方を中心に、国内のさまざまな質の良い広葉樹を原木から仕入れ、製材している。
西野製材所

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居酒屋 喜楽(きらく)
新名屋「天ぷらまんじゅう」
御菓子所田の下「いちご大福」
大塚智英「豆つかげ」
三寺まいり