Journal Vol.6
田中 一男さん(農家)
雪で滑って櫓から
落ちそうになることもあります。
農家の田中一男さんは、米やえごま、雑穀といった農産物を、安定的に栽培できるよう、機械を取り入れながら挑戦を続けています。田植え時期と重なる古川祭の思い出や、昔から親しんでいる飛騨の農産物や自然の魅力についてお聞きしました。
古川祭の思い出というと、子どもの頃は青龍台のお囃子に参加したことです。当時はお囃子に出る子は学校を休んでいいことになっていて、それが嬉しかったですね。
大人になってからは、古川の男なら一度は起し太鼓で太鼓を叩きたいと思うものなんですけど、ちょうど自分の番が回ってくる年に、トラクターでケガをしてしまっていたんです。太鼓は叩けずじまいで、それは今でも心残りです。
今年は雪が積もりませんけど、古川祭が行われる4月19日、20日は、まだ雪が降っている年も多いんです。起し太鼓の櫓の上に雪が積もるから、櫓に乗っているとすべって落ちたりすることもありますね。みんな酒を飲んでいるので、余計に櫓を揺するんですよ。片方の足は持ってもらうけど、ツルッとね。起し太鼓は体力を使いますけど、古川の男たちはみんな特別な運動もせずに参加していますね。一次産業に従事している者も多いし、雪おろしをしているから、自然にトレーニングできているのかもしれません。
古川祭は毎年楽しみですけど、我が家は農家だからちょうど祭りの時期は、田植えが始まる繁忙期です。参加は4年に1度だけでも、ほかの人に畑のことを任せるわけですから、正直、形見が狭いと感じることはあります。
飛騨の米はおいしいですよ。「米・食味分析鑑定コンクール」の国際部門で、7年連続金賞を取っています。同じ水で同じように炊いた米を審査員が一斉に食べて食味値と味度値の点数をつけた、食味に重きをおいた大会です。
おいしい米が育つ理由として考えられるのは、一つは稲が熟す気候です。高山盆地は海抜560メートル超あるので9~10月に朝霧が出るんですが、朝霧が出るときに畑の稲が熟すので、甘みが出てきます。もう一つは水。米には冷たいくらいの谷水がいいですし、土が石灰質だったり広葉樹が多かったりするので、ミネラル分が豊富な水が流れています。この二つの条件が揃っているから、食味値が高い米ができるんだと思います。古川町の飲食店でも飛騨の米が食べられる店が増えていますから、観光で来る方にも試して欲しいと思います。
いま、飛騨では「えごま」も力を入れている農産物です。えごまを年貢に納めていたこともあるほど昔から栽培されている植物で、和え物やおはぎ、五平餅などにして食べられてきました。現在ではα-リノレン酸を豊富に含んだ健康食品としてえごま油が注目されていますし、韓国料理の焼肉などで出てくる葉野菜の一つにえごまの葉っぱがあります。イノシシがなぜかえごまの畑は荒らさないことが分かったので、イノシシが下りて来やすい山の近くの畑などでえごまの栽培を始めています。
えごま入りのお菓子とか、飲食店でもえごまをトッピングしたメニューを作ってもらったりと、古川町内でもえごまを食べられる店が増えています。11月くらいから出荷が始まるので、市が「えごま月間」を開催して、多くの飲食店でえごまメニューを提供します。
個人的には、初夏から夏にかけて捕れる鮎料理もおすすめです。子どもの頃から自然が遊び場で、特に川で釣りをしたりして遊ぶことが多かったんです。鮎はきれいな水に生えるコケを食べて育つので、その川の味がするんですが、飛騨は水がきれいだから、鮎も美味しいですよ。
古川祭の料理の定番は山菜料理です。姫タケノコだと5月下旬くらいでしょうか。採って塩で瓶詰めにさせたり、ぜんまいは乾燥させておいて、来年の祭りに備えます。
だから、春になると義務みたいにしてみんなが山に山菜採りに出かけるんですが、飛騨地方は山菜が採れる期間が短いので、競争です。しかもライバルは、冬眠明けのクマもいます。飛騨の人は鉢合わせしないようにクマ避けの鈴をつけて、大音量でラジオを流しながら山に入ります。
ライター:干川美奈子 撮影:早坂直人[Y's C]
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